『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(The Imitation Game) は、2014年の歴史スリラー映画。
「2011年5月25日、アメリカのオバマ大統領は英国議会で行った演説で、科学に貢献したイギリス人として、ニュートン、ダーウィン、アラン・チューリングの3人の名前をあげた」とのこと。
この3人目の「アラン・チューリング」とは何者か?
その答えが、この映画です。
イギリスの天才数学者、アラン・チューリング。
チューリングマシンという仮想計算の概念を生み出し、それが今日のコンピュータのプログラム設計の元となっています。
(アラン・チューリング役のベネディクト・カンバーバッチの演技が素晴らしい)
映画『イミテーションゲーム』は、第二次世界大戦中のイギリスでチューリングを中心とした暗号解読チームが、ドイツ軍の暗号「エニグマ」の解読に挑むという物語。
これがアメリカ映画だったら、解読に成功した瞬間、「やったぜ!」のガッツポーズで主人公がヒーローになって終わり、というところでしょうが、さすがイギリス人の映画、繊細で奥深い人間ドラマとなっています。
ドイツの誇る最強の暗号「エニグマ」をチューリングを中心とした暗号解読チームが苦難の末に解読しますが、むしろ解読したあとの方が重要なのでした。
暗号が解読されたことを知れば、ドイツは即座に暗号の鍵を変えて組み直し、それまでの努力が水泡に喫して、また一から解読の鍵を探さなければならなくなるでしょう。それは解読にかかる時間の間、ドイツ軍の攻撃によって味方にますます多くの被害者がでることを意味します。
解読したことを、敵はもちろん味方でも限定した人間以外に知られないよう、虚偽の情報を織り交ぜかく乱しながらの熾烈な情報戦が始まります。
暗号を解読してドイツ軍の次の攻撃目標を知っても、ある攻撃に対しては反撃し、ある攻撃はそのまま攻撃されるままにする。
それによって最終的に連合軍が勝利し戦争を早く終わらせることになるとはいえ、チューリングの人間としての苦悩は深まります。
(共演のキーラ・ナイトレイ。チューリングが出したパズルを一番で解く類まれな頭脳の持ち主でありながら、社会の女性に対する制約に苦しむ女性です)「イミテーションゲーム」というタイトルには、チューリングの論文のタイトルであるだけでなく、暗号を解いていない振りをするというイミテーションも含まれているのだと思われます。
チューリングが、死後50年以上の間大きく取り上げてこられなかったのは、戦時中の暗号解読が長く軍の機密として公開されなかったという事実のほか、彼本人の性的問題があります。
チューリングは同性愛者で、同性愛は違法とされていた当時のイギリスで、チューリングは告発されて有罪とされてしまいます。
この映画でも、天才的数学者としての頑なで協調性に欠く性格と、性的マイノリティであることが、チューリングの立場を危うくし、何度もチームのなかで孤立しそうになります。
「戦争を終わらせる」ために大きな貢献を果たしたというのに、次回の戦争に備えて暗号解読の事実も長らく機密として扱われ、英雄としての栄誉も勲章も得られず、その後の人生でも表立って賞賛されることのなかったチューリング。
(こちらは暗号を生み出す方、エニグマ機) コンピュータが生活の一部となった現在、コンピュータ技術のもととなった概念を生み出したチューリングの偉業をたたえるこの映画が、世界で熱狂的に迎えられたことは感動的なことでもあります。
映画館でエンドロールが終わるまで誰も席を立つ人がいなかったのを見て、「お客さん、理系が多いに違いない」。 コンピュータ技術者必見の映画です。
映画のなかで何度か出た主人公の言葉、英語として覚えておきたく探してきました。
「Sometimes it is the people who no one imagines anything of who do the things that no one can imagine. 」
(時に誰も想像できなかった人物が、誰も想像できなかった偉業を成し遂げる)
サイト主、映画に感動して映画の元となった本、アンドリュー・ホッジス(英語版)による伝記『Alan Turing: The Enigma』を買い、読み始めました。
仕事の合間やランチタイムに少しずつ読み進めています。
興味深くて面白く、今ちょっと夢中です。