台湾映画『不一樣的月光』(サヨンを探して)
2013年 07月 08日
『不一樣的月光 : 尋找沙韻 Finding Sayun』
『セデック・バレ』に続いて、日本に関係のある台湾映画のご紹介。
とはいっても日本未公開で、今後も公開されるかどうかわからない映画。(2013年6月現在)
台湾盤DVDを、英語字幕で見ました。
タイトル『不一様的月光』は、「一様(同じ)でない月光」、又は「様々な月光」。
副題にある 「Finding Sayun(サヨンを探して)」から分かるように、戦前の「サヨンの鐘」の逸話をモチーフにしています。
日本でもかつて、『サヨンの鐘』という映画がありました。 昭和18年公開で、李香蘭が原住民族の少女サヨンを演じています。 エキゾチックでなかなかいいです。
「サヨンの鐘」とは、昭和13年の日本統治下の台湾で実際に起きた、タイヤル族の少女サヨンの遭難事故の話。
山奥のリヨヘン社に駐在する日本人巡査にある日召集令状が届き、急ぎ下山することになった。 当時の巡査は地区の学校の教師も務めていて、面倒見の良いその巡査のために、教え子たちがそれぞれ巡査の荷物を背負って一緒に下山することになった。 17歳の少女サヨンもそのなかの一人だった。 一行は悪天候のなかを出発したが、豪雨のために増水した川を渡る際、サヨンは足を滑らせて激流にのまれ、命を落とした。
恩師のために若い命を犠牲にした原住民族の娘の話が新聞に載り、日本の台湾総督府はサヨンの慰霊のために遭難現場の近くに鐘を建てた。 その鐘は「サヨンの鐘」と呼ばれた。
この話が日本にも伝わり、『サヨンの鐘』というタイトルで西條八十作詞、古賀政男作曲の歌が作られ、渡辺はま子が歌ってヒットした。 この曲は『月光小夜曲』というタイトルで、中国語の歌詞が付けられて、今も台湾などで歌われている。
2011年の『不一様的月光』(サヨンを探して)のストーリーは、大学で映画を専攻する女子学生が、サヨンについてのドキュメンタリー映画を制作するためにサヨンの部族が住む町を訪れ、サヨンが遭難したとき一緒に居たという老人と、その孫の高校生たちと一緒にかつてサヨンが歩いた道を辿る、というもの。
ほとんど無名の俳優、または素人を使った作品ですが、『セデックバレ』で主演した林慶台が、彼の本来の職である原住民の町の教会の牧師役で出ています。 また、『海角7号』ではナレーションでの出演だった蔭山征彦が、サヨンの恩師の日本人巡査を演じています。
「サヨン」がキーワードになっているけれど、この映画のテーマは実際のところ、現代の台湾を生きる原住民族の「ルーツへの想い」、あるいは「故郷への想い」なのだと思う。
死ぬ前にもう一度自分が育った故郷の村を見たいという原住民の老人の強い想い。それを叶えるために4日間かけて山を歩く孫とその仲間たち。
ようやくたどり着き、草が高く生い茂りかつての人が住んだ跡もない村に立ち、先祖の霊に語りかける老人。 その言葉のひとつひとつが、周りで聞く若者たちの心に浸み入っていく。
山から戻ったあと、老人は死に、高校生の孫や仲間たちは自分たちの進路に真剣に向かい合う。
映画としては最後の30分、つまり老人と若者たちがサヨンの道を辿るところがすべてだと思った。
そこに至るまでは、学生が作っているドキュメンタリという設定もあって、故意にか素人っぽい作り。
高校生たちの日常や恋愛を描いているところがたどたどしくて、バックに流れるギターの音色も古臭い。
それが山を歩くシーンに入ってから、急に展開が早くなって目が放せなくなり、一気にエンディングへと。
多少の欠点があっても、見た後にとても清々しい気持ちになれる映画。
ハデさはないけれど、日本人には懐かしく、心洗われる映画なのです。
さて、サイト主がこの映画で特に強い印象を受けたのは、老人の高校生の孫を演じる高校生役の男の子。
本物のタイヤル族の曹世輝くん。(原住民族名:尤幹巴尚 YUKAN BASAN)。
映画を撮ったときは役と同じ普通の高校生で、今は大学で映画制作の勉強をしているそうです。
「昔のすれていない男の子って、こんな感じだったなぁ」 (*´д`*)
はにかんだ笑顔が純粋できらきらしている、心温かく逞しい男の子。
若いアイドルに全く興味のないサイト主でも、Yukanくんを見るためだけにこの映画DVDを繰り返し見そう。
<(; ^ ー^)
この映画が日本でも公開されたら、Yukanくんは日本の女の子たちに人気が出ると思うのだけど。
それとも今の若い子には、こういうタイプの男の子はオールドファッション過ぎるのかなぁ。
何はともあれ、この映画、いつか日本でも公開されますように。
『不一様的月光』 映画予告編
http://www.youtube.com/watch?v=-aarI40ssWw